欧州疾病予防管理センター(ECDC)からのカンピロバクター関連情報
https://www.ecdc.europa.eu/en


食品および水由来の6種類の病原体に関する欧州各国リファレンス検査機関の検査能力(ECDCが調査報告書を発表)
ECDC publishes survey of National Reference Laboratories capacity for six food- and waterborne agents
16 Jul 2012
https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/media/en/publications/Publications/Survey-NRL-capacity-for-food-waterborne-agents.pdf(報告書PDF)
http://ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/Forms/ECDC_DispForm.aspx?ID=928
http://ecdc.europa.eu/en/press/news/Lists/News/ECDC_DispForm.aspx?List=32e43ee8%2De230%2D4424%2Da783%2D85742124029a&ID=680&RootFolder=%2Fen%2Fpress%2Fnews%2FLists%2FNews

(食品安全情報2012年16号(2012/08/08)収載)


 欧州の食品および水由来感染症サーベイランスは、各国のリファレンス検査機関(NRL)のデータにもとづいているため、食品および水由来疾患(FWD)アウトブレイクの早期検出および対応には、各加盟国の一定レベル以上の能力を持つリファレンス検査機関のネットワークが必須である。

 2009年、食品および水由来の6種類の主要な病原体(カンピロバクター、リステリア、サルモネラ、赤痢菌、志賀毒素/ベロ毒素産生性大腸菌(STEC/VTEC)、エルシニア)について、欧州連合(EU)および欧州経済領域(EEA)加盟国のNRL(および相当検査機関)に対し、これらの病原体の検査の提供可能性と能力を把握するための調査が行われた。この調査では、2009年7月2日に、加盟国の合計118のコンタクトポイントのそれぞれに6通の質問票(各病原体につき1通)が送付された。ECDCへの回答の締め切りは2009年8月24日であった。2010年に回答結果の分析が行われ、2012年1月に結果の解釈がスタートした。

 この調査にはいくつかの重点項目があった。それらは、病原体の検出・同定、詳細解析、および抗菌剤感受性試験(AST)に際し各NRLが使用している病原体ごとの方法、外部精度評価(EQA:External Quality Assessment)プログラムへの参加の状況、および各NRLと当該国の国立衛生研究所との関係である。また、EQAプログラムについての職員研修の有無とその必要性、および検査方法の標準化と統一に関する質問もあった。全体として回答率は高かったが(80%以上)、どのコンタクトポイントからもほとんどの病原体について回答がなかった国や回答が不完全の国もあった。このような制約にもかかわらず、この調査は、NRLを対象とした6種類の上記FWD病原体の検査能力に関する調査として今までで最も包括的なものであり、NRLの能力を評価し遅れている部分を特定するための基準となるデータを提供する。

 特定の病原体に関する指定NRLについては、分離株数および詳細解析のレベルにかなりの幅があるものの、当該病原体中、サルモネラに関するものが最も高頻度で各国に整備されていた。下痢の原因菌として最も多く見られるカンピロバクターについては、多くの国で指定NRLが存在せず、存在していても詳細解析の能力が低い(種レベルの判定すら行われない)場合が多かった。STEC/VTECの検出および詳細解析の検査業務は多くのNRLで提供可能であったが、詳細解析の能力は、単一の血清型(O157)のみを検出できるレベル(志賀毒素遺伝子の確認は不可)から、複雑なSTEC/VTECグループの全変異型の詳細解析が可能なレベルまで多様であった。NRLのリステリア、赤痢菌およびエルシニアに関する検査業務のレベルも同様に様々であった。抗菌剤感受性試験に関しても、調査の対象とした病原体を通じて、包括的な検査を行う機関から何も行わない機関まで様々であった。腸内細菌(Enterobacteriaceae)に新興の抗菌剤耐性(AMR)が出現する脅威に対し、ほぼすべてのNRLが基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)の検出を可能とする1種類以上の特定の抗菌剤について感受性試験を行っていたが、カルバペネマーゼ産生性腸内細菌(CPE)の検出を可能とする抗菌剤について感受性試験を行っているNRLはほとんどなかった。

 調査結果の分析により、少数の重要なFWD病原体の同定または詳細解析に関してNRLの能力が極めて低い/無い国もあれば、広範囲のリファレンス業務を提供できる高レベルの検査能力を有する国もあり、欧州のNRLの検査能力は様々であることがわかった。欧州内で物(食品)および人が自由に移動できることを考えると、この不均一性はFWDアウトブレイクの早期検出および対応にとって大きな弱点であると考えられる。

 本調査から、欧州疾病予防管理センター(ECDC)がNRLの業務に関して提供できる重要な支援として、検査方法の研修や標準化、EQAシステムの提供等が指摘されるが、根本的な問題は、一部の国のNRLで日常の公衆衛生業務を効果的に行うための能力が欠如していることである。本報告書から、欧州規模の公衆衛生保護ネットワークへの貢献のためには、NRLが使用している検査方法を欧州全体で統一し、NRLの最低限の業務能力を確保することが急務であると指摘された。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部