薬品部

(平成10年薬品部概要)

 平成10年度の薬品部の業務内容も昨年に引き続いて,医薬品の品質規格に関する研究,製剤評価に関する研究,ならびに麻薬及び依存性薬物に関する研究について試験・研究を実施した.しかしながら,省庁再編に向けて厚生省内での体制の見直しが進められている中で,当所の再編の問題も焦眉の問題となっている.平成7年に策定された厚生省試験研究機関の再編案では,現在の薬品部各室が3分され,大阪支所の薬品試験部や国立公衆衛生院の衛生薬学部などと合体して,薬剤研究部,医薬品科学部に,また麻薬室は生薬部麻薬室に再編成されることになっており,この大きな変化の波を乗り越えていくための積極的な対応が求められている.一方,研究面では,従来の品質規格や製剤評価に関する研究にとどまらず,ソリブジン事件を契機に大きくクローズアップされた薬物の相互作用など,医薬品の安全性,適性使用に関わる問題などについても研究できる体制を整える必要があるものと思われる.

  医薬品の品質規格に関する研究では,医薬品の分析法に関する研究,ならびに日本薬局方の規格及び試験方法に関する研究を行った.製剤評価に関する研究では,後発医薬品の品質再評価の動きとも関連した経口固形医薬品の品質保証のための溶出試験適用に関する研究や溶出試験法のキャリブレーションに関する研究,ならびに製剤中における医薬品の安定性を支配する因子を解明することにより,その安定性を予測し得る試験法を確立するための研究などを行った.また,麻薬及び依存性薬物に関する研究では,血液,尿,毛髪などの生体試料中の乱用薬物の分析法に関する研究,毛髪や尿の分析による薬物使用の鑑定法の研究,ならびに毛髪への乱用薬物の移行に関する研究などを行った.


(業務成績)

1)特別審査試験

 :新薬59件について試験した.

2)特別行政試験

 :あへん中のモルヒネ含量について試験を行い,医薬安全局麻薬課に報告した(国産あへん20件,輸入あへん59件,合計79件).

3)標準品の製造(向精神薬標準品)

 :塩酸4-ブロモ-2,5-ジメトキシフェネチルアミン(2C-B6g

4)国際協力

 @国際厚生事業団

a)14回アジア諸国薬事行政官研修(平成107月)

b)9回必須医薬品製造管理研修(平成1010月)

  :アジア諸国の薬事行政官ならび医薬品製造管理者に対する研修を行った.

 A国際協力事業団;中国天津医薬品検査技術協力プロジェクト

          平成10年度研修員 中国天津市薬品検験所 王 樹嵐 薬師

  :生体内薬物分析に関する研修(平成109月〜平成113月)

  :中国天津市薬品検験所に必要な技術移転の進歩状況を視察(平成107月).

   同プロジェクトの成果と問題点について評価(小嶋部長).

  :天津市主催第5回日中薬品分析セミナー(平成109月)において,化学合成医薬品の品質に関するICHガイドラインについて公演を行った.

5)その他

 (審査会,調査会などへの協力)

 @中央薬事審議会各種調査会における審議(医薬安全局審査管理課及び安全課)

 A日本薬局方の改正作業(医薬安全局審査管理課)

 B日本薬局方外医薬品規格及び医薬品添加物規格の改正作業(医薬安全局審査管理課)

 C地方衛生研究所技術者講習会(医薬安全局監視指導課)

 D麻薬及び乱用薬物に関する情報収集(医薬安全局麻薬課)

 E日本工業規格(JIS)の改正作業(通商産業省)

 (ガイドラインの作成及び公表,医薬安全局審査管理課)

 @処方変更のための生物学的同等性試験ガイドライン

 A含量違いの製剤の生物学的同等性試験ガイドライン

 B後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)

 
(研究業績)

1)医薬品の分析法に関する研究

  @医薬品の迅速分析法に関する研究(第三室,医薬安全局監視指導課委託研究費)

   :平成101222日に監視指導課から通知された外用抗真菌薬(イミダゾール系抗真菌薬)の迅速分析法の適用外とされた外用抗真菌薬の試験方法を新たに開発した.

  Aラセミ体医薬品のキャピラリー電気泳動による分離研究に関する研究

   (第三室,試験一般研究費)

   :キャピラリー電気泳動を用いた多種成分配合の消化器官薬中のアズレンスルホン酸ナトリウムの分析法を検討した.

  B輸入熱帯病・寄生虫症に対するオーファンドラッグの臨床評価に関する研究

   (第三室,官民共同プロジェクト研究/創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業)

   :希少疾病(熱帯地域からの輸入寄生虫症)用の未承認医薬品である塩酸メフロキン錠及びリン酸プリマキン錠の「規格及び試験方法」を更に整備した.これにより,治験薬として供給するこれら希少薬の品質をよりよく確保できるようになった.

  C医薬品に係わる指定検査試験機関の信頼性保証制度の確立に関する研究

   (第三室,医薬安全局監視指導課委託研究費)

   :指定検査機関の試験検査結果の信頼性確保を目的として精度管理に関する検討を行った.

  D地域における医薬品試験等のネットワーク化に関する研究

   (第三室,厚生科学研究/医薬安全総合研究事業)

   :監視指導課及び地方衛研の間に,国立衛研をキーステーションとし,39機関152名の参加した双方向ネットワークを試験的に構築し,検査データや試験法などに関する情報交換を行った.

  E原因不明の中毒事故における情報提供体制の在り方と発生初期の分析法に関する研究(第三室,厚生科学研究/医薬安全総合研究事業)

   :中毒起因物質になり得ると思われる医薬品8種について,その分析マニュアルを作成した.

2)日本薬局方の規格及び試験方法に関する研究

  @一般試験法に関する研究(第三室,日本公定書協会/医薬品の規格及び試験方法に関する研究)

:第十三改正日本薬局方の第一追補及び第二追補収載品目について,参照赤外吸収スペクトルを作成した.また,参照スペクトルの作成に関連して,臭化カリウム錠剤法により測定試料の調製を行うとき,塩酸塩の形の医薬品では塩素イオンが臭素と置換を起こすため,スペクトルに変化が現れる問題を検討し,一定の解決方策を見出した.

  A日本薬局方等医薬品基準の規格・試験方法に関する研究

   (第三室,厚生科学研究/医薬安全総合研究事業)

   :医薬品各条への原薬の新規収載ならびに既収載品目の見直しの際に,ICHの原薬の不純物ガイドラインとの関連で,どのような点に留意して純度試験,特に不純物(類縁物質)の規格を整備するかを検討した.

3)医薬品の有効性,安全性に関する薬剤学的研究

  @経口固形医薬品の品質保証のための溶出試験適用に関する研究

(第一室,厚生科学研究/医薬安全総合研究事業)

   :溶出挙動が異なる2種のインドメタシン顆粒及び1種のインドメタシン錠を調製し,パドル法の50rpmにおける溶出速度の差異とバイオアベイラビリティの差異について検討した結果,溶出試験において同等でなくても生物学的に同等となるケースがあることが判明した.

  A処方変更製剤の生物学的同等性試験の評価法

   (第一室,医薬品機構/生物学的同等性の評価に関する研究)

   :溶出試験の適格性を93施設で調査した結果,溶出試験器の振動に鋭敏なセファレキシン徐放顆粒は,溶出試験の操作法の適格性を判断する上でも有用であることが判明した.また,振動に問題のある試験器はほとんど使用されていないことがわかった.

  C医薬品の品質保証基準及び品質判定システムに関する研究

   (第一室,厚生科学研究/医薬安全総合研究事業)

   :ICHで合意されている定期的試験/スキップ試験の我が国への導入を目指して,適用し得る試験項目や実施上の課題などについて検討した結果,GMPに基づく医薬品の品質保証が定着しつつある現状においては,含量均一性試験や確認試験などに定期的試験/スキップ試験を適用できること,管理図に基づくスキップ試験の採用が望ましいことなどを明らかにした.

4)医薬品の物理・化学的安定性に関する研究

  @分子運動性スケールの利用による効率的省資源型安定性試験法の確立に関する研究

   (第二室,厚生科学研究/医薬安全総合研究事業)

   :デキストランをはじめとする種々の水溶性高分子を添加剤とするタンパク質凍結乾燥製剤の分子運動性をパルスNMR緩和法,熱分析法及び誘電緩和スペクトル法によって測定した.凍結乾燥製剤はガラス転移温度より2030℃低い温度ですでに高い運動性を持つことが明らかになった.

  A加速試験で評価できない製剤機能の安定性評価に関する研究

(第二室,官民共同プロジェクト研究/創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業)

   :溶融法によって得られるニフェジピンの非晶質医薬品について,保存による経時的な結晶化現象を等温型ミクロ熱量計及び示差熱量計(DSC)を用いて検討し,DSCが結晶化の評価法として,またエンタルピー緩和時間の測定法として有用であることを明らかにした.

  Bγ線照射による穏やかな重合を利用した精密な放出制御機能を有する刺激応答性薬物伝達システムの設計

   (第二室,国立機関原子力試験研究費)

  (平成11年度研究計画)

   :γ線照射によって調製したデキストランゲルからのタンパク質の放出速度は,ゲルの網目サイズとタンパク質の分子サイズによって決まることが分かった.架橋度を調節し,目的とするタンパク質の分子サイズに適合した網目サイズを有するゲルを調節することによって,タンパク質の放出速度を制御できることが明らかになった.


5)麻薬及び依存性薬物に関する研究

  @毛髪中の乱用薬物の分析法に関する研究

   (麻薬室,科学技術庁STAフェローシップ研究費)

   :GC/MS及びHPLCを用いた毛髪中のベンゾジアゼピン系催眠剤(8)の分析法を確立し,これらの薬物をラットに投与した場合の毛髪への取込率を測定した結果,塩基性のフルラゼパムが比較的取込率が高かったものの,他の薬物群と比較して,毛髪への取込率の低い薬物群であることが明らかとなった.

  A薬物中毒の毛髪診断に関する研究

   (麻薬室,厚生科学研究/厚生科学特別研究事業)

   :アミノピリンを投与したラットの毛髪中の親化合物及び3種の代謝物(4-メチルアミノアンチピリン,4-アミノアンチピリン,4-アセチルアミノアンチピリン)の分析法を確立し,長期に投与を続けるほど代謝物の生成が促進されることを見出した.また,トリアゾラム投与のラット毛髪中の主成分は4-水酸化トリアゾラムであることを確認するとともに,パラコート投与のラット毛根中からパラコートを検出することに成功した.

  B毛髪分析による覚せい剤様医薬品使用の識別に関する研究

   (麻薬室,厚生科学研究/医薬安全総合研究事業)

   :偽覚せい剤のジメチルアンフェタミンと覚せい剤メタンフェタミンとの識別法を検討し,毛髪分析により両者を識別する方法を確立した.併せて,ラットにおける尿や血液への代謝物の分布を毛髪中のそれと比較検討した.

  C向精神薬の分析法に関する研究

   (麻薬室,医薬安全局麻薬課委託研究費)

   :6種のフェネチルアミン系薬物(d-フェニルプロパノールアミン,l-フェニルプロパノールアミン, カチン,2C-B,ジメチルアンフェタミン)とLSDについて,呈色反応,薄層クロマトグラフィー,赤外吸収スペクトル分析,高速液体クロマトグラフィー,ガスクロマトグラフ/質量分析を行い,これらの測定結果に基づいて分析マニュアルを作成した.

  D急性覚せい剤中毒の化学的証明に関する研究

   (麻薬室,乱用薬物基礎研究費)

   :アルコール併用時の覚せい剤中毒の際に体内で生成することが疑われている神経毒性の高いテトラヒドロイソキノリン(TIQ)を確認するための検討を行い,覚せい剤とアルコールを同時投与した動物の毛髪中からTIQを微量ながら検出することが出来た.


(誌上発表)

  原著論文

1Kaniwa, N., Katori, N., Aoyagi, N., Ishigame*1, N., Seta, Y. *1, Shinba, T. *1, Fujiwara, K..*2, Nakai, T. *2, Oda, Y. *2, and Kojima, S.: Collaborative study on the development of a standard for evaluation of vibration levels for dissolution apparatus.

Int. J. Pharm., 175, 119-129 (1998)

  *1東京医薬品工業協会

  *2大阪医薬品協会

2)香取典子,鹿庭なほ子,青柳伸男,小嶋茂雄:溶出試験の判定基準の問題点及び改善II

日本薬局方フォーラム,7157-1651998

3Katori, N., Kaniwa, N., Aoyagi, N., and Kojima, S.: A new acceptance sampling plan for the official dissolution test.

JP Forum., 7, 166-173 (1998)

4Yoshioka, S., Aso, Y., and Kojima, S.: The Effect of Excipeints on the Molecular Mobility of Lyophilized Formulations, as Measured by Glass Transition Temperature and NMR Relaxation-Based Critical Mobility Temperature.

.Pharm. Res., 16, 135-140 (1999)

5Nakai, Y., Yoshioka, S., Aso, Y., and Kojima, S.: Solid-State Rehydration-Induced Recovery of Bilirubin Oxidase Activity in Lyophilized Formulations Reduced during Freeze-Drying.

Chem. Pharm. Bull., 46, 1031-1033 (1998)

6Luo, Y., Aso, Y., and Yoshioka, S.: Swelling Behavior and Drug Release of Amphiphilic N-Isopropylacrylamide Terpolymer Xerogels Depending on Polymerization Methods: g-Irradiation Polymerization and Redox Initiated Polymerization.

Chem. Pharm. Bull., 47, 579-581 (1999)

7Aso, Y., Yoshioka, S., and Kojima, S.: Determination of the Diffusion Coefficient of Insulin and Lysozyme in Crosslinked Dextran Hydrogels by Pulsed-Field-Gradient NMR.

Chem. Pharm. Bull., 46,1836-1839 (1998)

8)最所和宏,王 麗琴,石橋無味雄,外岡弘道,奥田秀毅,小嶋茂雄:高速液体クロマトグラフ法によるH2受容体拮抗薬の迅速分析法

医薬品研究,29620-6261998

9Wang Liqin, Saisho, K., Ishibashi, M., and Kojima, S.: Rapid determination of H2-receptor-antagonists by High Performance Liquid Chromatography.

Tianjin Pharmacy, 10, 64-66 (1998)

10Nakahara, Y., Kikura, R., and Takahashi, K.: Hair Analysis for Drug Abuse XX. Incorporation and Behaviors of seven Methamphetamine Homologs in Rat Hair Roots.

Life Sci., 63, 883-893 (1998)

11Sakamoto, T., Endo, M.*, Nagasaki, A.*, Nakamura, A.*, Watanabe, S.*, Tanaka, A.*, and Nakahara, Y.: Evaluation of Hair Root Analysis for Acute PCP Poisoning and Behavior of PCP Metabolites in Rat Hair Root.

Pharmazie, 53, 310-314 (1998)

  *昭和薬科大学

12Tagliaro, F.*, De Battisti, Z.*, Groppi, A.*, Nakahara, Y., Scarcella, D.*, Valentini, R.*, and Marigo, M*.: High sensitivity simultaneous determination in hair of the major constituents of ecstacy by high-performance liquid chromatography with direct fluorescence detection.

J. Chromatogr. B., 723, 195-202 (1999)

  *Department of Medicine, Verona University

13)木倉瑠理,中原雄二,渡部基信*妊娠中ブロンR液及び覚せい剤乱用の母親と新生児の毛髪分析例

中毒研究,1243-501999

  *福井赤十字病院