医薬品品質フォーラム 第4回シンポジウム



医薬品品質フォーラム第4回シンポジウム開催に当たって
医薬品品質フォーラム代表世話人   小嶋茂雄 
(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 顧問)

 これまでのわが国における医薬品の品質保証は、「出荷時に試験を行い、承認された品質規格に適合しているかどうかを確認すること」を中心として組み立てられてきました。それが、今大きく変わろうとしています。

 ICHの品質分野では、2003年11月以来、製剤開発(Q8)とリスク管理(Q9)について調和ガイドラインの作成が進められてきましたが、これらの課題が最近ステップ2に達しました。このうち、Q8では“Quality by Design”という考え方が提唱されています。これは、製品の品質は、最終製品について試験を行うことで保証すればよいというのではなく、製造プロセスを目的の品質のものが製造されるように設計し、適切な状態で稼働するようにコントロールすることによって、「品質を製品中に造り込む」ことによって保証すべきであるという考え方です。また、Q8には“Design Space”という概念が出てきます。これは開発段階において製剤の品質に影響を与える重要な特性について広くかつ深く検討しておけば、製造段階になって何らかの変更が必要となったときにも、検討の範囲内であれば、変更による影響が予測できるため、一々行政側の審査を仰がなくてもフレキシブルに対応することができるという考え方です。
 こうした考え方を盛り込んだガイドラインがICHの場で合意に達しようとしていることは、開発段階から製造段階までを見通した品質保証の体制(Total Quality System)を組み上げ、データや情報を共有することにより、品質保証を柔軟な形で展開するという考え方が国際的な流れとなりつつあることを示すものだと思います。
 わが国においても、薬事法の改正により、承認申請書に製造方法についての詳細な記載が求められるようになりました。これは、医薬品の品質の恒常性を確保するためには、「出荷時の試験で製品が承認された品質規格に適合しているかどうかを確認する」ことに注目しているだけでは十分とは言えず、「製造工程をしっかり管理して、一定した品質の製品を製造する」ことを併せて重視する必要があるとの認識に基づいて行われたものと思われます。
 こうした変化の中で、どのような品質保証の体制を構築するかが企業側にも、行政側にも問われていると思います。従来見られたような出荷試験の規格にさえ適合していればよいとのスタンスを企業側がとり続けるようでは、行政側にフレキシブルな形での規格の設定やGMPの運用を期待することはできません。今後の品質保証が柔軟な形で展開されるようにしていくためには、企業側から「製造工程をしっかり管理することによって、一定した品質の製品を製造できていること、そうした状況の下では品質保証を柔軟な形で展開できること」を説得力のある形で行政側に示すとともに、行政側が業界側のそうした努力に理解を示すことが重要と思われます。

このシンポジウムにおいて、わが国における品質保証のあり方についても活発な議論が展開されることを期待しています。

ICH Q8 ガイドライン(製剤開発)に関して:
 ICH Q8 ガイドラインが2004年11月の横浜会合でステップ2に達し、現在、厚生労働省審査管理課においてパブリックコメントコメント(締切期限:2005年8月1日)に付されている。
 製剤開発の目的は、本ガイドラインでは「高品質の製品を設計することであり、その製品を恒常的に供給できるように製造工程を設計することである」とされている。この理念は、製剤開発研究から得られる情報はリスクマネジメントの基盤となるとの認識及び、品質は製品になってから検証するものではなく、設計の段階から備わっていなくてはならないとするQuality by Designの概念に基づいている。本ガイドラインは、製剤開発研究の一般原則についても検討し、設計領域(Design Space = 品質が保証されうることが確認された工程パラメータに関するある確立された範囲;製剤特性及び製剤処方に適用できる場合もある)の概念を提示し、製剤開発研究によって設計領域が確立された場合には、柔軟な規制の取組みが進展することを想定している。
 一方、国内においては、2005年4月より改正薬事法が完全施行になり、製造方法・工程管理が承認要件に組み込まれた。さらに品質に影響を与える可能性の小さい製造方法の軽微な変更に関しては、従前の承認事項一部変更申請を要せず、届出で良いとする制度に変更された。また、ある種の操作パラメータ等に関しては、承認書記載事項から逸脱した場合においてもGMP上の逸脱管理の規定に従って処理が可能となる制度(目標値・設定値)が導入された。
 本ガイドラインは軽微変更届の範囲を決定する際の有力なツールになると思われるが、設計領域を如何に具体的な製剤に適用するかに関しては経験がなく、本ガイド  ラインの理念を改正薬事法施行下の日本の品質保証システムに組み込む際の課題は多い。
 産・官・学からの積極的な発言を期待している。

ICH Q9 ガイドライン(リスク管理)に関して:
品質マネジメントは製剤開発の中で得られた知識を基礎に、技術移管、承認後の製造を通して、その知識をより堅牢なものにしていくシステムである。ICH Q9ガイドラインは、“リスクマネジメントの手法を、医薬品のライフサイクルを通して、品質マネジメントに適用すること”を進めるために作成されたものである。リスクマネジメントについては、既に多くの分野において様々な手法が開発され、有効に利用されてきた。これらの手法を医薬品の品質マネジメントの中で応用し、それによるメリットを十分に得ることを目的としている。
 品質リスクマネジメントを適用するメリットは、意思決定をより容易なものとし、より透明性の高いコミュニケーションを実現することである。
 そのために品質リスクマネジメントの実施は、患者保護に帰結し、科学的知見に基づいた適切な資源配分がなされるべきとされている。本ガイドラインは新たな規制を導入するものでもないし、規制の緩和を約束するものでもないが、医薬品の品質分野におけるリスクマネジメントの原則、手法、適用例を示しており、ICHの他の品質ガイドラインとともに、将来の品質システムの基礎となることが期待される。
 本フォーラムでの議論を通じて参加者の本ガイドラインへの理解が深まり、パブリックコメント提出に役立てば幸いである。