医薬品品質フォーラム第1回シンポジウム

「日本における品質保証の課題 製剤設計と変更管理−CTD申請と新しいGMP管理への対応−」開催にあたって
医薬品品質フォーラム代表世話人   小嶋茂雄 
(国立医薬品食品衛生研究所 薬品部長)

 この度、医薬品の製造や品質確保に関心のある産官学の方が広く参加して、わが国における医薬品の品質保証のあり方についてフランクなディスカッションを行い、その成果を行政に生かせるような活動(米国のPQRI的な活動)を行うことを目指して、新たに医薬品品質フォーラムを立ち上げることになりました。

 この10年間のICHの活動により日米欧三極間で合意された50にも上るガイドラインが実施の段階に入り、こうした国際基準化の波が我が国の製薬企業や規制当局の活動に大きなインパクトを与えるようになってきています。また、平成14年7月には薬事法の改正が成立し、平成17年4月から施行されることになっています。この薬事法改正は、我が国の医薬品の承認許可制度を、従来の製造承認をベースとしたものから、欧米と同様の販売承認をベースとしたものに抜本的に改めるものであり、現在改正薬事法の施行に備えた法令や施行規則等の整備が進められていますが、その影響するところは非常に大きなものと予測されます。ICHでは、現在 「Total Quality System」が調和の課題として提案されており、従来からの枠を打破して開発段階から実際の生産の段階までリンクした形での品質保証のシステムを組み上げ、データや情報を共有することにより、品質保証を柔軟な形で展開することが国際的な流れとなろうとしており、わが国がこうした流れに対応しうるような体制を整備しうるかが問われています。 こうした国際化、変化の大波の中で生き抜いていくには、医薬品の開発、承認申請、実際の製造にあたる企業側の者であろうと、承認審査や査察にあたる規制側の者であろうと、科学的な論拠に基づいて柔軟な判断を行い得るだけの力をつける必要があると思われます。アカウンタビリティのある形でのやりとりを規制側と企業側の間で積み重ねていくことが、こうした国際化の時代において我が国の品質保証のあり方をレベルアップしていく道ではないかと考えられます。
このような観点から、医薬品の製造や品質確保に関心のある方が産官学を問わず広く参加して、フランクなディスカッションを行える場とすることを目指して、新たに医薬品品質フォーラムを立ち上げることにいたしました。

 今回、「日本における品質保証の課題 製剤設計と変更管理−CTD申請と新しいGMP管理への対応−」をシンポジウムのテーマとして取り上げた理由は、今後の医薬品の品質保証の上で、製剤設計と変更管理が非常に重要なポイントと考えたためです。
BSE問題で滑沢剤のステアリン酸マグネシウムが牛由来のものから植物性のものに切り替えられたとき、経口固形製剤からの有効成分の溶出性が大きく変わって各社が対応に追われるといったことが起きていますが、これは、添加剤の変更が製剤のファンクショナリティに大きな影響を及ぼしうることを明確に示した事例でした。
 また、品質再評価の中で変更管理の重要性が浮かび上がってきています。品質再評価は,先発品の溶出プロファイルに後発品のプロファイルを合わせるという方針で始まりましたが、事業の進行とともに先発品の溶出プロファイルが良くない例がいくつも出てきています。元から(製剤設計が)悪かったのか、それとも先発品で変更管理が行われていなかったためにいつの間にか下がってしまったのか、データがないためにどちらか分わからないという状態にあります。バイオバッチのプロファイルを現在生産されているものにしっかりとつないでいくことが必要と思われます。
医薬品の品質保証に関わる方々に、製剤設計と変更管理の重要性を理解していただき、自分のこととして実践していく必要があることをアピールしたいと考えています。

 今後も、国際化の中で検討が必要とされる課題、改正薬事法の施行に向けてあるいは施行の下で検討が必要とされる課題などを始めとして、我が国における品質保証のレベルアップにつながる話題を積極的に取り上げて、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

 医薬品品質フォーラムを医薬品の品質確保に携わる皆さんが日頃抱えている問題点について積極的に発言し、議論し、解決の方向を探ることができるような場としたいと思っています。ただ話を聞きに来て、その内容をメモして帰るような説明会あるいは勉強会ではつまらないではありませんか。
皆さんの積極的な参加を呼びかけます。