■ ダゾメット・メタム(カーバム) 検査マニュアル

PT-GC/MSによる一斉分析法(別添方法23)

1.対象物質

 ここで対象とする農薬は,ダゾメットおよびメタム(カーバム)である.ただし,ダゾメット,メタムはいずれも,水と反応して速やかにメチルイソチオシアネート(MITC)に分解するため,本分析法では,ダゾメットおよびメタムをMITCに分解した後,MITCの濃度を測定し,測定値をダゾメットあるいはメタムの濃度に換算する.

2.試薬

(1) 精製水
測定対象成分を含まないもの
(2) メタノール
測定対象成分を含まないもの
(3) アスコルビン酸ナトリウム
測定対象成分を含まないもの
(4) 内部標準原液
フルオロベンゼンおよび4-ブロモフルオロベンゼンのそれぞれ0.500gを,メタノール10mLを入れた別々の100mLメスフラスコに採り,メタノールで定容したもの(フルオロベンゼン,4-ブロモフルオロベンゼン各5g/L).これらの溶液は,調製後直ちに冷却しながら1~2mLのアンプルに小分けし,封入して冷凍保存する.
(5) 内部標準液
内部標準原液の一定量をメスフラスコに採り,メタノールで薄めたもの.2種類の内部標準物質を使用する場合には,2種類の内部標準原液を,メタノール少量を入れた1つのメスフラスコに一定量採り,同様の希釈操作を行う.この溶液は,使用の都度調製する.
(6) メチルイソチオシアネート(MITC)標準原液
MITC標準品の100mgを100mLメスフラスコに採り,メタノールで定容したもの(1000mg/L).この原液は,冷凍保存する.
(7) 農薬標準原液
MITC標準原液の一定量をメスフラスコに採り,メタノールで薄めたもの.この溶液は,使用の都度調製する.

3.器具および装置

(1) ねじ口瓶
容量40~100mLのもので,ポリテトラフルオロエチレン張りのキャップをしたもの.
(2) アンプル
容量1~2mLのもの
(3) 恒温槽
80℃に保持できるもの
(4) パージ・トラップ装置(測定条件については表1を参照)
ア.パージ容器
ガラス製で,精製水および検水を処理できるもの.
イ.恒温槽
30~40℃の範囲内で一定の温度に保持できるもの.
ウ.トラップ管
内径2mm以上,長さ5~30cmのもので,ステンレス管又はこの内面にガラスを被覆したものにポリ-2,6-ジフェニル-p-ジフェニレンオキサイド,シリカゲル及び活性炭を3層に充填したもの又はこれと同等以上の吸着性能を有するもの.
エ.脱着装置
トラップ管を180~250℃の温度に急速に加熱できるもの.
オ.トラップ管を180~250℃の温度に急速に加熱できるもの
内径0.32~0.53mmの溶融シリカまたはステンレス管で,-50~-120℃程度に冷却でき,かつ200℃まで加熱できるもの.ただし,クライオフォーカス操作を行わない場合は,この装置を使用しなくてもよい.
カ.フラグメントを得るための電圧
ESI法(ポジティブイオンモード)により得られたプリカーサイオンを開裂させてプロダクトイオンを得る方法で,最適条件に設定できる電圧
表1. パージ・トラップ装置の測定条件の例
項目 パラメータ
サンプル量 20 mL
トラップ管 Tenax
パージガス He
パージ時間 11 min
ライン温度 150℃
トラップ管加熱温度 225℃
(5) ガスクロマトグラフ‐質量分析計(測定条件については表2を参照)
ア.分離カラム
内径0.20~0.53mm,長さ60~75mの溶融シリカ製のキャピラリーカラムで,内面に25%フェニル-75%ジメチルポリシロキサンを1μmの厚さに被覆したもの又はこれと同等以上の分離性能を有するもの.
イ.分離カラムの温度
対象物質の最適分離条件に設定できるもの.
ウ.検出器
選択イオン測定(SIM)又はこれと同等以上の性能を有するもの.
エ.イオン化電圧
電子イオン化法(EI法)で,イオン化電圧を70 Vにしたもの.
オ.キャリアーガス
純度99.999%(v/v)以上のヘリウムガスと同程度の感度が得られるもの.
表2. ガスクロマトグラフ-質量分析計の測定条件の例
項目 パラメータ
カラム AQUATIC-2(60m×0.25mm×1.40μm,ジーエルサイエンス)
昇温条件 40℃(15min)→15℃/min→140℃→20℃/min→250℃(8min)
AUV温度 250℃

4. 試料の採取および保存

 試料は,精製水で洗浄したねじ口瓶に泡立てないように採取し,満水にして直ちに密栓し,速やかに試験する.速やかに試験できない場合は,冷暗所に保存する.
 なお,残留塩素が含まれている場合には,試料1Lに対してアスコルビン酸ナトリウム10~20mgを加える.

5. 試験操作

(1) 前処理
ねじ口瓶を予め80℃に加熱した恒温槽に入れ,1時間加熱した後,室温で30分間静置する.
(2) 分析
検水をパージ容器に採り,内部標準液の一定量を添加する.ただし,検水中に含まれるMITCの濃度が0.5μg/Lを超える場合には,0.02~0.5μg/Lの濃度範囲になるように精製水を加えて濃度を調製する.次いで,パージ・トラップ-ガスクロマトグラフ質量分析計を操作し,表3に示すMITCと内部標準物質とのフラグメントイオンのピーク面積の比を求め,必要に応じて下記(3)で求めた空試験のピーク面積の比を差し引いた後,下記6により作成した検量線から検水中のMITCの濃度を算出する.これに,ダゾメットに換算する場合は2.22を,メタムに換算する場合は1.77を乗じて,検査試料水中のダゾメットあるいはメタムの濃度を算出する.
表3. モニターイオンの例
物質名 モニターイオン(m/z)
メチルイソチオシアネート 73,72
フルオロベンゼン※ 96,70
4-ブロモフルオロベンゼン※ 95,174,176

※内部標準物質

(3) 空試験
精製水をねじ口瓶に採り,上記(1)および(2)と同様に操作してピーク面積の比を求める.

6. 検量線の作成

 MITC標準液を段階的にメスフラスコに採り,それぞれに内部標準液の一定量を加え,さらにメタノールで定容する.精製水を上記5と同様に採り,これに段階的に調製した溶液の一定量を注入する.以下,上記5と同様に操作して,MITCと内部標準物質とのフラグメントイオンのピーク面積の比を求め,MITCの濃度との関係を求める.