国立医薬品食品衛生研究所 National Institute of Health Sciences
生物薬品部 Division of Biological Chemistry and Biologicals













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 研究概要(2009年度)

研究概要

  新薬全体に占めるバイオ医薬品の割合は,世界的に年々増加している.その中で,最も大きく伸びているバイオ医薬品は抗体医薬品である.さらに最近は,先端技術を用いて天然型タンパク質の高機能化や体内動態プロファイルの改善を図った修飾タンパク質,融合タンパク質医薬品等の開発が活発化している.また,第一世代バイオ医薬品の多くが特許期間満了を迎えたことにより,バイオ後続品開発にも世界的な注目が集まっており,我が国でも昨年,ソマトロピン及びエポエチン アルファの後続品が承認された.これらのバイオ医薬品の品質・有効性・安全性は,徹底的な製品特性の解析,科学的合理性に基づいた製造設計と管理,及び製品の規格及び試験方法の設定等により確保されるものであり,有用な評価技術開発及び評価研究が求められている.
  一方で,我が国における新規バイオ医薬品の開発品目数は,減少傾向にある.そこで,内閣府,文部科学省,厚生労働省,経済産業省が協力して,革新的技術の開発を阻害している要因を克服するため,資金の統合的かつ効率的な運用や,開発段階からの規制を担当する機関等との意見交換や相談等を試行的に行い,最先端再生医療,医薬品・医療機器の開発・実用化を推進する先端的医療開発特区(スーパー特区)事業が開始された.
  平成21年度生物薬品部では,生物薬品の特性と品質評価技術に関する研究,医薬品の有効性と安全性に関する生物化学的研究,生体内活性物質の作用機序と細胞機能に関する研究,並びに先端技術を利用した生体成分関連医薬品に関する基礎的研究を実施した.特筆すべきこととして,平成22年1月よりウイルス安全性研究室の設置が認められ,ウイルス安全性評価研究が強化されたことが挙げられる.また,スーパー特区事業に関連して,平成21年6月1日より,課題が採択された企業及び大学に対する相談窓口を設け,個別に且つ具体的な薬事相談を受けて対応することによって明らかになった薬事上の課題を抽出し,その対応方策を検討するスーパー特区対応部門が組織された.

業務成績

1. 日局各条ヘパリン試験の策定
ヘパリンナトリウム異物混入問題への対応の一環として,日局各条ヘパリンナトリウム及びヘパリンカルシウムの確認試験及び純度試験を策定した(医薬食品局審査管理課)
2. 国立保健科学院特別課程薬事衛生管理コースへの協力
 山口前部長は,上記コースの講義の講師として「バイオ医薬品の品質保証」について講義した.
3. 国際協力
 石井室長は,国際厚生事業団(JICWELS)の第25回アジア諸国薬事行政官研修に協力して,アジア諸国の薬事行政官に対する研修を行った.
4. その他
薬事・食品衛生審議会の各種部会および約20品目の新薬および医療用具の承認審査に関わる専門協議や確認申請の専門協議(医薬品医療機器総合機構)に参画した.また,日本薬局方各条および試験法の改正作業,国際調和作業(医薬食品局審査管理課)などに協力した.
 バイオロジクスの研究開発,製造に係る諸問題,及び製品の品質・有効性・安全性評価等に関する研究発表並びに情報交換の場として設置されたバイオロジクスフォーラムの第7回学術集会を「バイオ医薬品を巡る様々な話題」をテーマに開催した(平成22年3月).

研究業績

1. 生物薬品の特性と品質評価技術に関する研究
1)バイオ医薬品の特性解析及び品質・安全性評価法の開発の一環として, 各種担体にポリエチレンイミンを結合したカラムを作製してタンパク質分離特性とウイルス除去効率を検討し,バイオ医薬品の製造工程で有効なウイルス除去工程となりうる最適な担体を見出した.また, HPLCを用いた7種類の単糖分析法について,アルテプラーゼを用いて8機関の共同にて精度及び真度等を検証し,糖鎖試験法としての問題点を明らかにした上で,標準的単糖試験法を作成した(HS財団創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業).
2)再生医療実用化に向けた細胞組織加工医薬品の安全性・品質等の確保に関する基盤技術開発研究の一環として, ヒト間葉系幹細胞(hMSC)の神経様分化前後のN-結合型糖鎖及び細胞表面タンパク質の発現差異解析を行い,一部の糖鎖,及び複数のタンパク質の発現量に顕著な差が見られることを明らかにした.また, 血管内皮前駆細胞の培養上清中タンパク質及び細胞表面タンパク質の解析に基づき,細胞浸潤能に関連する新たな特性指標としてMMP-2及びMMP-9を見出した(厚生労働省科学研究費補助金).
3)細胞治療,再生医療における放射線照射ストローマ細胞の有用性確保に関する研究の一環として, マウスストローマ細胞の造血幹細胞の支持に重要な働きをする3つの膜結合タンパク質を見出し,これらのタンパク質を強制発現した細胞をストローマ細胞として用いることにより,長期コロニー形成が促進されることを確認した.
4)医薬品規制の国際調和の推進による医薬品審査の迅速化のための基盤的研究の一環として, 腫瘍溶解性ウイルスベクター遺伝子治療薬の体外排出のリスク評価における課題について明らかにし,ICH見解の取りまとめに寄与した.また, 糖タンパク質バイオ後続品の同等性/同質性評価に必要な要件を明らかにすることを目的として,欧州で承認されているエポエチンアルファ先行品と後続品の糖鎖プロファイルを比較し,糖鎖の類似性評価の重要性を示した.さらに, 組換えヒト卵胞刺激ホルモン(FSH)を高発現するCHO細胞株,アフィニティー精製に適用可能なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ,及びレポータージーンアッセイによるFSH活性測定用の細胞株を樹立した.また, 抗体医薬品の生物学的性質評価法に関する研究の一環として,抗体のFc領域の改変等によるエフェクター活性の最適化に関する開発動向を明らかにすると共に,汎用されているエフェクター活性測定法の問題点を明らかにした.加えて, 製造方法がバイオ医薬品の有効性に及ぼす影響に関する研究の一環として,劇症肝炎の治験が行われているHGFの有効性評価において,肝細胞の増殖促進試験,ELISA法,SPR法を用いたHGF受容体への結合試験が有用であることを明らかにした(厚生労働省科学研究費補助金).
5)輸血用血液製剤に対する副作用を生じない病原体不活化技術の開発に関する研究の一環として, 輸血用血液製剤に含まれるタンパク質のモデルとして血液凝固第[因子を選択し,LC/MSを用いたペプチドマッピングにより,一次構造の確認並びに部位毎のN-及びO-結合型糖鎖不均一性を明らかにした.また血小板製剤への適用が検討されているリボフラビンを用いた不活化技術について,病原体不活化能及び血小板への影響の観点から,有用性と解決すべき課題を明らかにした(厚生労働省科学研究費補助金).
6)医薬品を巡る環境の変化に対応した日本薬局方の改正のための研究の一環として, バイオ後続品の品質・安全性確保のために必要な要件について調査し,同一とする先行バイオ医薬品の定義,規格設定のための先行バイオ医薬品との比較要件,同等性の許容域,不純物プロファイルの比較など,多岐にわたる項目について必要な要件を明らかにした(厚生労働省科学研究費補助金).
7)ヘパリン関連医薬品の確認試験及び純度試験に関する研究の一環として, 弱塩基性陰イオン交換HPLC(WAX-HPLC)を用いた確認試験,WAX-HPLCまたは核磁気共鳴法を用いた過硫酸化コンドロイチン硫酸純度試験,並びに蛍光標識法を用いたガラクトサミン純度試験法を策定した.
8)タンパク質医薬品製剤中成分の簡便迅速な確認法に関する研究の一環として, 複数の有効成分からなるバイオ医薬品中の有効成分や添加物について,質量分析によって簡便迅速に確認するための条件を明らかにした.

2.医薬品の有効性と安全性に関する生物化学的研究
1)血中微量タンパク質の代謝に関する研究では, 血中微量タンパク質の酸化体をMALDI-TOF MSによって測定する条件を見出した.
2)Fc受容体との相互作用に着目したTNF阻害抗体医薬の生物学的性質に関する研究では, TNFを結合標的とした抗体(インフリキシマブ,アダリムマブ)と融合タンパク質(エタネルセプト)の間ではヒト新生児型Fc受容体(FcRn)に対する親和性が異なり,この差がFcドメイン以外の領域に起因するものであることを明らかにした(文部科学省科学研究費補助金).
3)Fcドメイン含有タンパク質医薬品の生体内分布・分解と半減期に関する研究では, 抗体等のFcドメイン含有タンパク質のFcRn結合親和性と生体内分布の関連を解析するための基礎的検討として,マウスFcRnとの親和性測定系を作製し, 抗体等の分布,分解を観察するための蛍光標識法を最適化した(文部科学省研究費補助金).

3.生体内活性物質の作用機序と細胞機能に関する研究
1)ホルモン等の作用発現に関与する諸因子に関する研究の一環として, 肝細胞の培養に伴い増殖抑制因子であるP16INK4AはHGF非依存的に発現が増加することを見いだし,P16INK4Aの発現をノックダウンできる条件を確立した.培養肝細胞においてアネキシンVのノックダウン及び, HGFはco-mitogenであるプロスタグランジンE2の産生に影響を及ぼさなかった.各種キナーゼ阻害剤を用いて解析した結果,ヒト肝癌由来HuH7細胞においてアネキシンVのノックダウンにより発現が低下するCOX2の産生には,PI3K-AKTおよびMEK-ERKシグナル伝達経路が関与していることが明らかになった.加えて, 培養肝細胞においてプロテアソームの阻害剤がグルココルチコイド依存的なTyrosine aminotransferase,Tryptophan oxygenaseの転写促進を阻害することを示唆する結果を得た.
2)グライコミクス技術による腫瘍関連糖タンパク質の探索と腫瘍マーカーへの応用研究として, 異なる複数の大腸癌細胞株と乳癌細胞株に発現している抗シアリルルイスx抗体反応性のタンパク質を同定し,同一タンパク質であることを見出した(文部科学省科学研究費補助金).
3)ヒト幹細胞の分化における糖鎖機能の解明を目的として, 13C置換フェニルヒドラジンを用いて頑健性及び再現性に優れた定量的糖鎖プロファイリング法を開発し,hMSC由来糖鎖の解析に応用した(文部科学省科学研究費補助金).
4)食細胞の活性酸素産生系の調節因子の解明とその機能分化についての研究では, カルシウム結合タンパク質のS100A8,及びS100A9のcDNAを調製し,食細胞の活性酸素生成酵素の誘導におけるこれらの分子の重要な働きを明らかにした.
5)NotchおよびNotchリガンドタンパク質の糖鎖修飾とその生理機能に関する研究では, Alagille症候群において認められるNotchリガンドタンパク質Jagged1のアミノ酸点変異体の特性解析を行い,これらの変異体が小胞体に蓄積して高マンノース型のN-結合型糖鎖構造をとること,糖タンパク質のシャペロンタンパク質と強く相互作用することを明らかにした.

4.先端技術を利用した生体成分関連医薬品に関する基礎的研究
1)トランスジェニック植物を利用して製造されたタンパク質医薬品に関する研究の一環として, トランスジェニック植物を用いたタンパク質医薬品生産のモデルとして,ヒトタンパク質を発現するヒメツリガネゴケ遺伝子組換え体を樹立した.
2)高機能性製剤の構成要素としてのタンパク質医薬品の評価に関する研究として,高機能性製剤の構成要素となる抗体医薬品の体内動態制御機構について検討し,血中半減期制御におけるFcRnの重要性を明らかにした.
3)スーパー特区事業における薬事上の課題抽出及び対応に向けた調査研究の一環として, スーパー特区研究現場に赴き,実際のデータや研究プロトコールなどの状況を把握した上で,薬事上の問題点を把握し,早期の薬事申請が実現するよう研究者に対して助言・指導を行った.また,薬事相談を通じて明らかになった医薬品や医療機器の開発初期において配慮すべき課題を抽出し,その対応方策を検討した(科学技術振興調整費).
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