「再生医療」をうたいながら、その効果や安全面の検証が不十分な医療行為に規制の網をかける「再生医療安全確保法案」が24日、閣議決定された。政府は今国会での成立を目指す。「私のような犠牲を増やしてほしくない。国がもっと早く規制してくれれば」。多額の費用で幹細胞投与を受け、持病が悪化したという兵庫県内の女性(68)が、毎日新聞に体験を語った。
女性は42歳の時、全身がしびれて日常生活に支障が出る症状に見舞われた。大学病院でも診断がつかず「治療法はない」と告げられた。自主的にリハビリを続け、50歳ごろには自力で歩けるまでに改善したが、手足のしびれが残った。
昨年6月上旬、難病も治るという「再生医療」の存在を知った。美容専門の「さくらクリニック」(東京都渋谷区)で、車椅子の患者が幹細胞を投与されて歩けるようになったという内容のビデオを見た。「自分の脂肪から採った幹細胞を投与するので安全」とも説明され、「こういう時代が来たんだ」と投与を希望した。
7月末、女性は自宅で、同クリニックの非常勤医師らから幹細胞投与を受けた。しかし幹細胞は他人のもの。「高齢で持病もある」との理由で事前に変更を告げられていたが、腎移植を経験している女性は副作用が不安になった。これに対し、医師は「大丈夫」と太鼓判を押した。投与は1回のみで、治療費は約134万円だった。
ところが秋に入ると、しびれが全身に広がり、発症当時に近い状態に悪化。幹細胞投与との因果関係は不明だが、女性は「自分の体に何が起きているのか知りたい」と表情を曇らせる。今も足裏の感覚がなく、簡単に転んでしまう。クリニックに訴えると、院長を名乗る男性は「私なら(投与は)勧めなかった」と話したという。
さくらクリニックは毎日新聞の取材に「事前にインフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)を行った上で投与したことを担当医に確認した。ご本人から治療費の返還を求められており、コメントは差し控えたい」などと文書で回答した。
女性は「わらにもすがりたい難病の人たちの心理は痛いほど分かる。法の網がかからない間に稼ごうという医師が、たくさんいるのではないか」と話す。
(毎日新聞 2013/5/25より引用)