◇「美容」に浸透、トラブルも
今年2月末、東京・お台場のビルで開催された「再生医療セミナー」。約40人の参加者の多くは医療関係者とみられ、再生医療への関心の高さをうかがわせる。車いすに乗った患者の姿もあった。
主催した「サンフィールドクリニック」は細胞培養施設を備え、自由診療で月30〜40人に幹細胞を投与する。半数以上が美容目的だが、難病患者に承諾書を取った上で投与することもあるという。
理事長の久保伸夫医師は「倫理委員会を定期的に開いている。過去に約500例投与したが事故はなく、安全性には自信がある」と胸を張る。自由診療で再生医療を提供するこうしたクリニックは、特に「若返り」などの美容分野で広がっているが、幹細胞治療を規制する新法ができれば、研究目的の場合と同様、厳しい規制の網がかけられる。久保医師は「新法には従うが、施行されればしばらく投与できなくなる。それまでにできるだけ多くの(投与)データを集め、効果を検証したい」と話した。
一方、日本医科大病院(東京都文京区)の形成外科には、民間クリニックでの「再生医療」でトラブルをかかえた患者が毎月、数人のペースでやってくる。しわ取り目的で幹細胞から取り出した成長因子や自分の血小板などを顔に注射され、顔がこぶだらけになった患者もいた。自由診療の場合、トラブルがあってもクリニック側には報告義務がなく、患者は泣き寝入りするケースが多い。
同病院の百束比古(ひゃくそくひこ)教授は「『再生医療』を客集めに使うクリニックもある。動物実験を経ないでヒトに投与したり、トラブルが起きても最後まで責任をとらなかったりするような医療は問題だ」と早期の規制を求める。
京都ベテスダクリニックの死亡事故、新宿クリニック博多院での韓国人への幹細胞投与、そして「再生医療」をうたう医療でのトラブルなどを受け、厚生労働省は今国会での規制法の成立を目指す。「再生医療」という言葉を看板や広告に安易に使うケースには、医療法に基づく行政指導を始めた。
国内外の再生医療政策に詳しい大和雅之・東京女子医大教授は「(自由診療の)治療成績をまとめた論文や学会発表はほとんどなく、宣伝だけが先行している。十分な情報を与えられない患者の選択にゆだねることは問題」と話す。
安倍晋三首相は4月、経済政策の「3本目の矢」として、再生医療の実用化・産業化を成長戦略の一つの柱に据えた。海外から患者を誘致する「医療ツーリズム」を推進する方針も変わらず、厚労省幹部には「法律名に『規制』という言葉は使わないでほしい」との要請も届く。
これに対し、新法のたたき台となる報告書をまとめた永井良三・自治医大学長は言う。「再生医療には夢やロマンがあるが、踊らされないようやっていかなければ。報告書は、きちっとした再生医療を患者さんに届ける第一歩だ」
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■ことば
◇再生医療の法規制
厚生労働省が検討中の規制法では、幹細胞治療を行うすべての医療機関に、公的な認定機関(新設)への申請と了承を義務付ける。患者の体から取り出した幹細胞投与などは、認定機関の了承を得れば厚労相への届け出で実施できる見通し。違反者への罰則も盛り込む方針。これとは別に、議員立法による「再生医療推進法」が今国会で成立した。
(毎日新聞 2013/5/6より引用)