◇網膜に異常、見えにくく 特効薬効かない人にiPS治療
なるほドリ 人工多能性幹細胞(じんこうたのうせいかんさいぼう)(iPS細胞)で作った目の組織を移植して、「加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」という病気の治療を目指す世界初の臨床研究(りんしょうけんきゅう)が計画されているんだってね。どんな病気?
記者 理化学研究所などが2月、臨床研究の計画を国に申請しました。私たちが物を見る時、目に入ってきた光を網膜(もうまく)で受け取り、その情報を脳に伝える仕組みが働いています。その時大事な役目を果たすのが、網膜の中心部にある「黄斑」という部分です。その構造がおかしくなる(変性)のがこの病気です。年をとると発症しやすいので、こういう病名が付いています。一般的症状として、視野の真ん中にある物がゆがんで見えたり、暗くなったりします。進行すると、お金が数えられないなど日常生活に支障が出て、重くなると失明につながる恐れもあります。
Q 患者は多いの?
A 国内で70万人がこの病気にかかり、10年前の2倍以上に増えていると推計されています。60代以上が多いのですが、50代から注意が必要だそうです。主な原因は加齢ですが、喫煙や太陽光の浴びすぎも関係しているようです。外見上の変化も痛みもないため「見え方がおかしい」と自分で気づくのが最大の手がかりです。人間の目は、片方の異常をもう片方が補う性質があり、診断の際は片目ずつ異常がないか調べます。
Q どうやって治すの?
A この病気のうち日本人に多いのは、網膜の裏側に余分な細い血管ができ、血や水分がたまる「滲出(しんしゅつ)型」と呼ばれるタイプです。以前は治療が困難でしたが、08年以降、血管ができるのを防ぐ「抗VEGF薬」という薬が登場しました。医師によると、この薬の効果は「画期的」だそうで、目に注射して使います。それでも良くならない人が、患者全体の2〜3割いるそうです。iPS細胞を使った臨床研究は、こうした治療が難しい人たちが対象です。将来、iPS細胞による治療が確立されたとしても、薬で治る人たちに適用されることは当面、ないでしょう。
Q なぜこの病気が最初に?
A iPS細胞から作った細胞の移植で最も心配されるのが、移植細胞のがん化ですが、目の細胞は元々がんになりにくいとされています。また移植細胞の数も、他の臓器の治療と比べて少なくて済み、移植後も医師が経過を観察しやすいなど、有利な点がいくつかそろっているからです。
(毎日新聞 2013/3/5より引用)