政府は2014年度にも、iPS細胞を使った再生医療研究や新薬の開発などを進める新組織を設立する検討に入った。全国の研究機関の成果から有望な技術を探し出し、実用化の道筋をつける。厚生労働、経済産業、文部科学各省にまたがる関連機関の司令塔となり、医療改革の戦略作りを主導、行政と産業界の橋渡し役も担う。成長戦略の柱の「健康・医療」分野の施策を推進する。
iPS細胞を活用した再生医療では現在、基礎研究を文科省、臨床応用を厚労省、産業育成を経産省が担っており、政府内の連携不足が指摘されている。各省の予算が重複する例もあり、一体的な実用化戦略が描けずにいる。
菅義偉官房長官は22日の閣議後の記者会見で、内閣官房に「健康・医療戦略室」を設置すると発表した。厚労、経産、文科、財務の各省から審議官を集め、新組織の設立に向けた調整を始め、来年の通常国会に関連法案を提出したい考えだ。
菅長官は「医薬品・医療機器を戦略産業として育成し、日本経済再生の柱とすることを目指す」と述べた。厚労省も同日、田村憲久厚労相を本部長とする健康・医療戦略推進本部を設けた。6月に策定する新成長戦略に向け、医療政策に関する推進プランもまとめる。
新組織は米国の国立衛生研究所(NIH)がモデル。同研究所は大学などの研究機関が生み出す基礎的な研究開発のアイデアなどを産業界に橋渡しして、革新的な医薬品や医療機器の開発を後押ししている。医療政策の司令塔として予算を握り、がんやアルツハイマー病などの新薬開発や再生医療、全遺伝情報の解読など有望な研究に2兆円を超える規模の研究費を投じている。
再生医療や新薬開発など各国がしのぎを削る分野では政府の効率的な研究支援が必要として、産業界などから「日本版NIH」の設立を求める声も多かった。
新組織の研究機能の中核として、国立がん研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立循環器病研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センターの6つの独立行政法人を1つに統合する案も浮上している。
「日本版NIH」は第2次安倍政権以前にも2000年以降、自民、民主両政権で構想されたが、各省の抵抗などもあり実現しなかった経緯がある。設立できても、実質的な権限を持たせない限り単に官の肥大化を招くだけとの指摘もある。
(日経新聞 2013/2/22より引用)