安全確保、普及へ不可欠(日経新聞 2013/2/14)
先端医療センター(神戸市)の倫理委員会が13日、iPS細胞を使った再生医療の臨床研究を承認、2013年度にも同センター病院で人への治療が試みられることになった。山中伸弥京都大教授がマウスから世界で初めてiPS細胞を作製して約6年半。ノーベル賞も受賞した日本発の革新的な研究成果は、異例のスピードで再生医療として医療の現場に活躍の場を移す。
山中教授は06年8月にマウスでiPS細胞を開発、07年11月に人でも作製することに成功したと発表した。これまでの医学ではどんなに画期的な成果でも基礎研究が臨床応用につながるには10年単位の年月が必要。iPS細胞と同じようにあらゆる細胞や組織に育つ胚性幹細胞(ES細胞)の場合、マウスでの成果から30年近くかかった。
iPS細胞が6~7年という早さで臨床研究に手が届くまでになったのは、これまで治療法のなかった病気に対し光をあてたからだ。脊髄損傷や心筋梗塞などの新たな治療法の確立を目指してiPS細胞を活用した様々な研究が国内外で急ピッチで進む。
先端医療センターが臨床研究を承認したのは、網膜細胞が傷んで失明の危険がある難病「加齢黄斑変性」。文部科学省が作成したiPS再生医療の工程表によると、臨床研究は目の病気から始まり、血液の病気、神経系難病などが続く。10年以内に腎臓や肺などの移植に使う臓器を作る技術を確立する。
ただ、iPS細胞を使った治療は世界でも前例がないだけに、医療行為として根付かせるには相当な時間がかかる。移植後にがん化するリスクが残るため、治療の効果が期待できたとしても医療の現場で使いこなすようになるには、安全性を突き詰めておかなければならない。
「300メートルしか飛べなかったライト兄弟の初飛行みたいなもの。危険はあるし、一緒に治療に臨みたい人だけ臨床研究に参加してほしい」。7日に都内で開かれた再生医療研究を後押しする国の成果報告会で、理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーは聴衆に語りかけた。
目の細胞の組織はがんになりにくいとされる。もし腫瘍ができてもレーザーで焼くことで対処でき、比較的リスクは低い。加齢黄斑変性を対象にした研究が先行するのはこのためだ。
幹細胞を使った再生医療を巡っては一部の医療機関が自由診療のもとで実施に踏み切り、トラブルなども起きている。10年には京都市のクリニックで自らの幹細胞を持ち込んで治療を受けた韓国人男性が死亡した。厚生労働省は再生医療に承認制を取り入れるなど初の法規制を導入する方向で議論を進めており、安全性の高い再生医療を後押しする考え。
山中教授はiPS細胞を使った再生医療が本格化する時期について20年以降とみている。
(日経新聞 2013/2/14より引用)