脂肪から取り出した幹細胞が、血管内で「血栓」を作る仕組みを、岡野光夫(てるお)・東京女子医大教授らのチームが解明し、国際医学生物学誌(電子版)に発表した。福岡市のクリニックでは、来日した韓国人患者に対し、脂肪から取り出した幹細胞を注射していることが分かっている。チームは「こうした治療が、科学的検証が不十分なまま実施されている」と、安全性に警鐘を鳴らしている。【再生医療取材班】
チームは、マウスの脂肪から間葉系幹細胞を取り出して増やし、マウスの静脈にゆっくり注射した。1匹あたり15万個を投与した場合、13匹中11匹が投与直後から呼吸困難となり、数分後に死んだ。原因は、肺の血管に血栓が詰まり、全身に酸素が供給されず死にいたる「肺塞栓(はいそくせん)」だった。10分の1の1万5000個投与した場合、マウスは死ななかった。
マウスの脂肪から取り出した間葉系幹細胞の表面を詳しく調べたところ、血液を固める性質を持ったたんぱく質が普通の細胞より多く存在していた。培養して増やした間葉系幹細胞では、このたんぱく質が培養前の10倍に上った。
一方、幹細胞に血栓防止薬を加えると血栓ができにくくなったことから、チームは投与された幹細胞が「核」となり、周りの血液を固めて血栓を作ったと結論づけた。ヒトの脂肪や骨髄などから取り出した間葉系幹細胞に、同様の仕組みがあることも確かめた。
チームの辰巳公平・同大特任助教は「血液が固まる仕組みはヒトとマウスに大きな違いはないため、幹細胞投与による肺塞栓はヒトでも起きる恐れがある。安全性確保に、この成果を役立てたい」と話す。
(毎日新聞 2013/1/29より引用)