再生医療の安全性を確保するため政府が検討している新法で厚生労働省は、患者に幹細胞を投与する医療機関については、幹細胞の「培養」と「使用」の2段階で規制する方針を固めた。福岡市博多区のクリニックで、韓国人を対象に研究段階の幹細胞投与が大規模に実施されるなど、民間施設での自由診療が先行する実態を踏まえ、厳しい規制が不可欠と判断した。必要に応じて罰則も検討するという。
幹細胞投与は再生医療の一つとして期待されている。患者から採取した幹細胞を培養して、効果があると思われる数まで増やし、それを患者に投与するなどして使うのが一般的だ。厚労省はこの2段階に規制を検討する。
「治療」として実施する場合、現在は施設内倫理委員会の承認など所定の手続きを求める厚労省の通知があるが強制力はなく、違反しても罰則はない。このため、2年前に京都市のクリニックで韓国人男性が幹細胞投与後に死亡した件では調査ができず、「新宿クリニック博多院」が毎月500人近い韓国人に幹細胞投与をしている事実についても、当局は実態把握もままならない状態だ。
厚労省再生医療研究推進室によると、法案では、使用する幹細胞を培養する施設について、研究目的、治療目的にかかわらず共通の設置・運用基準を設ける。投与する際にも、その方法や部位などについて一定以上のリスクがあると認められる場合には届け出を求める。さらに、自由診療で幹細胞を投与する医療機関に治療実績を公表させ、実態解明につなげることも検討する。
新法の狙いについて同室は「事故を予防できる仕組みが必要。社会の期待が高い再生医療の実用化を推進するための規制だ」と話す。
ただし、医師法は「医師の裁量」を認めており、医療行為を規制する法律は、脳死判定や臓器摘出の条件を定めた「臓器移植法」以外に例がない。
再生医療に対して行政当局の介入を進めることが議論を呼ぶ可能性もある。
また厚労省は22日、「新宿クリニック博多院」の実態把握を進めるため、任意で報告を求めることを視野に、医院の開設届を提出している福岡市と連携して対応を検討することを決めた。【再生医療取材班】
(毎日新聞 2012/12/23より引用)