再生医療の治療に使う細胞をあらかじめ備蓄しておく「細胞バンク」の整備計画が相次いでいる。体のどんな組織にも育つiPS細胞や、様々な組織のもとになる細胞のうち、多くの人で拒絶反応を起こしにくい種類を取りそろえる。事故や病気の患者が来院してから、治療用の細胞を作り始めていては間に合わない場合がある。治療までの時間を短縮し、再生医療の普及を後押しする。
京都大学の山中伸弥教授は日本赤十字社と連携し、iPS細胞バンク作りに乗り出した。日赤がへその緒から採った臍帯血(さいたいけつ)をバンクとして保管している。この細胞を使ってiPS細胞を作る。
登録済みの臍帯血は白血球の型が分かっている。京大では白血球の型が異なるiPS細胞を数十種類用意すれば、日本人の約8割で使えるとみている。
従来、臍帯血は白血病患者への移植にのみ使う取り決めだったが、このほど厚生労働省の委員会でも再生医療への利用を容認した。
民間の歯髄細胞バンクを運営する再生医療推進機構(東京・中央)と板橋中央総合病院グループで臍帯血バンクを運営するアイル(東京・板橋)はこのほど事業提携した。
治療などから抜いた歯の根元にある歯髄や、臍帯血の細胞約1万細胞を3年以内に集め、日本人の約半数で問題なく利用できる細胞を備蓄。安全な細胞や組織に育て、難病治療に応用したい考え。
5年後には板橋中央総合病院内に細胞治療センターを設立する計画だ。再生医療推進機構は鶴見大学歯学部や岐阜大学との共同研究を続けている。iPS細胞を使った再生医療は2013年度にも人での臨床研究が始まる。
病気や事故で失った体の機能を取り戻せるとして期待を集めている。
再生医療では患者の細胞からiPS細胞を作り、目や神経の細胞などに育てて移植する想定だが、目的の組織などに育てるには半年程度かかる。適切な時期に治療を始めるためにも、あらかじめ安全な細胞を用意しておくバンクが求められる。
(日経新聞 2012/10/2より引用)