厚生労働省は万能細胞であるiPS細胞などの技術を使った再生医療の実用化を後押しするため、患者の情報を蓄積するデータベースをつくる。再生医療で治療を受けたすべての患者を登録し、新しい治療法の研究や副作用の把握につなげる。国が主導して安全管理の体制を整えることで、医療機器メーカーなどの企業や大学が研究や開発をしやすくする。
再生医療は事故や病気で損なわれた組織や臓器の働きを回復させる技術として実用化が期待されている。国が薬事法に基づいて承認した再生医療の製品は人工軟骨と培養皮膚の2つ。重い心臓病や目の難病の治療など、臨床研究の段階に入っている技術も増えており、今後、医療現場で普及が進むとみられている。
再生医療は難病治療などで効果を見込める一方で、安全面では未知の部分も多い。厚労省は再生医療の実用化を加速させるには、早期に安全管理の体制を整備する必要があると判断した。
データベースは2013年度から構築し始め、15年度から患者情報を蓄積する。再生医療製品を開発した企業や、患者の治療にあたった病院がデータを日本再生医療学会に報告し、再生医療で治療を受けた国内すべての患者の症例を集める。
患者の年齢や性別、製品の使用量などの基本情報のほか、治療後の経過なども継続して蓄積する。個人を特定できないようにデータは匿名にする。集めた情報は独立行政法人、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が分析し、患者に副作用が発生していないかどうかや、副作用の発生確率も分かるようにする。
ベンチャー企業などは製品の開発後に治療の効果などの情報を把握し、管理するのは人員や費用の制約があり難しい。データベースがあれば、企業や研究者が安心して製品を開発しやすくなる。厚労省は副作用の少ない技術の開発に役立てることも期待している。
再生医療の臨床研究に関する新たな審査基準もつくる。実用化が見込める技術を研究する大学などを13年度から公募。PMDAの審査員を大学に派遣し、臨床研究の段階から知識を共有しながら基準をつくる。がんの発生率をどこまで抑えられれば実用化できるかといった数値や臨床試験(治験)に必要な人員数など、技術の承認に必要な基準を想定している。
再生医療は革新的な技術を扱うため、明確な承認基準がなければ、ほかの大学や企業の研究・開発が続かない恐れがあった。審査員と共同で基準をつくれば審査や承認の期間を短くできる。欧米の基準も参考にし、技術を開発した後に海外展開できるようにする。
(日経新聞 2012/9/29より引用)