政府は次世代医療として期待される「再生医療」について、実用化までの手続きを緩和する検討に入った。国の承認を得るため効果や副作用を検証する臨床試験(治験)を医薬品の場合よりも簡略化し、実用化後の監視を強化する方法に改める方向。安全性を確保しながら実用化を促進し、世界先端技術で国際的な競争力強化を目指す。
政府の医療イノベーション会議が6日にまとめる今年度からの5カ年戦略に盛り込み、国家戦略会議が今夏にまとめる日本再生戦略にも明記する。来年の通常国会にも薬事法改正案を提出する。
再生医療は事故や病気で失った体の一部や機能を修復する医療技術。研究段階では新型万能細胞(iPS細胞)から神経や網膜の細胞シートなどを作り、患部に移植する治療法がある。細胞シートなどの「再生医療製品」は薬事法の対象で、医薬品並みの治験や審査が必要。現在は医薬品の治験は「人に初めて投与」「少数の患者に投与」「多数の患者に投与」と対象を3段階で実施することになっている。
ただ再生医療は代わりとなる治療法がない場合が多く、患者から早期実用化を求める声が強い。治験に時間をかけるよりも実用化後の監視強化に軸足を置く方が効果的と判断。再生医療製品の場合は3段階目の「多数」の治験を省略する方向で検討する。一方、治験は設備の整った「臨床研究中核病院」で実施することにし、早期開発と安全確保の両立を目指す。
医薬品の治験は10年以上かかることが多いが、治験を短縮することで開発期間は4~5年程度短くできるとみられる。研究開発が加速すれば、網膜の再生やパーキンソン病の治療など、期待される再生医療の実用化に弾みがつく。
5カ年戦略では、医薬品並みに厳しい医療機器の製造・販売に関する許認可制度も見直す。許認可にかかる時間を短縮することで開発や改良を促進し、国内メーカーの競争力を強化する。医療機器として規定する分野も拡大し、現行法で明記していないインスリンのペン型注入器など医薬品と医療機器の性質を併せ持つ「複合製品」や、画像診断アプリケーションなど無形のソフトウエアも対象に含める。
(日経新聞 2012/6/6より引用)