胎児のへその緒などから採取した幹細胞を使い、高額で未承認の難病治療を行うクリニックが、中国各地に広がっているとの報告を、12日付の英科学誌ネイチャーが掲載した。一部のクリニックは幹細胞の注射でアルツハイマー病や自閉症の症状が改善したと宣伝するが、同誌は「治療効果が期待できないだけでなく、深刻な副作用の恐れもある」との専門家の見方を紹介し注意を呼び掛けている。
◇北京や上海に拠点
同誌によると、クリニックは経済成長が続く北京や上海などに拠点を置き、海外からの医療ツーリズムを呼ぶ狙いもあるとみられる。アルツハイマー病治療では、1回当たり60万〜100万円の注射を4〜8回実施。自閉症の場合は500万円近い出費を求めるケースもある。中国政府は09年に幹細胞治療の事前審査を義務付け、今年に入って実施機関の登録を求めるなど規制を強化したが、未承認の治療は水面下で広がったままだ。
◇日本の事例も報道
日本での幹細胞治療は、国の指針に沿った臨床研究などの手続きを踏まなくても、医師の裁量で自由診療として実施できる。だが、10年秋にネイチャーが、日本にある韓国企業の提携医療機関で幹細胞治療を受けた韓国人患者1人が死亡したと報道。これを受け、日本再生医療学会は昨年3月、薬事法による承認や保険適用を受けていない幹細胞治療に関与しないよう会員に勧告した。
幹細胞治療では、幹細胞を点滴したり注射したりすることが多いが、幹細胞の一部は粘着性が強く、動物実験で幹細胞を点滴後に血管が閉塞(へいそく)して死ぬ例も確認されている。難病治療として期待されると同時に、がん化など安全性や有効性に課題が残されている。
(毎日新聞 2012/4/14より引用)