ヒトの皮膚細胞から直接、神経のもとになる細胞(幹細胞)を作ることに、慶応大の赤松和土講師と岡野栄之教授が成功した。さまざまな組織になる能力を持った人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作って神経幹細胞に分化させる方法では半年かかるが、約2週間に短縮でき、安全性も高い。脊髄(せきずい)損傷患者への治療に応用できる可能性が広がるという。28日付の米誌「ステム・セルズ」(電子版)に論文が掲載された。
岡野教授らはiPS細胞作成に必要な4種類の遺伝子を皮膚細胞に入れ、培養に使う物質を7日後から3日間だけ別の物質に切り替えることで神経幹細胞を作った。
これまでに、iPS細胞から作った神経幹細胞を、人為的に脊髄を傷つけて歩けなくしたマウスなどに一定期間後に移植し、歩けるようになることを確認している。効果が見込める移植時期はマウスの場合7~10日後、ヒトは2~4週間後とみられる。従来は神経幹細胞作成に半年かかったため、あらかじめ他人の細胞で作ったiPS細胞や神経幹細胞を用意しておく「細胞バンク」が不可欠とされた。今回の手法ならバンクは不要で、拒絶反応のない自分の細胞を使える利点もある。
(毎日新聞 2012/3/29より引用)