厚生労働省は重い病気にかかっている患者に対し、国内で未承認の医薬品を使いやすくする制度を創設する。がんなどが進行し、新薬の審査・承認を待てない患者に投薬治療の機会を提供する狙い。治療を受ける患者の経済的な負担を和らげるため、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を新制度に一部適用することも検討する。来年の通常国会に薬事法改正案を提出し、早ければ2014年度に導入したい考えだ。
厚労省が創設するのは、重度の病気でほかに治療法のない患者に対して未承認薬を提供する「コンパッショネート・ユース制度(CU制度)」と呼ばれる仕組み。欧米で導入されており、日本版として詳細を詰める。
欧米など日本と同じ水準の規制がある国で承認済みで、日本の製薬会社が国内での開発・製造を検討している医薬品を想定。重度の病気で、新薬の安全性などを製薬会社などが最終確認する治験に参加できないような患者を対象とする方向だ。
薬は製薬会社がまとめて輸入し、患者は一定の条件を満たした医療機関で治療を受ける。
抗がん剤などは日本で承認されておらず、治療に使えない薬が多い。例えば、欧米で腫瘍の治療に使われるザノザールは日本では臨床研究の段階。前立腺がんの治療薬のフィルマゴンも日本では未承認だ。
日本では治験に参加できるのは年間数万人とされ、米国の10分の1程度。治験の参加基準に該当せず、重度の病気でも新薬による治療を受けられない患者も多い。
現在、未承認薬を治療に使う場合は医師が厚労省に届け出て、海外から個人輸入するケースがほとんど。日本では新薬の申請から承認まで1~2年かかるため、海外から持ち込む事例が多い。
だが国内の未承認薬での治療には公的保険が適用されず、患者は薬代だけでなく検査費や入院費など全額を負担する必要がある。薬代や医療費で月100万円近く必要となる例もある。
このため新制度では、患者の自己負担は薬代だけとし、それ以外の医療費には公的保険を適用する混合診療を認めることを検討する。混合診療は現在、一部の大学病院などで先進的な医療を提供する場合に限り、例外的に認められている。新制度は混合診療を一定の範囲内で広げる仕組みになる可能性がある。
欧米と比べた日本の新薬承認までの期間は、最近は短縮しつつある。ただ、治験の開始までに時間がかかって承認が遅れる例もあり、欧米に比べて薬の使用が可能になるまでの期間が長い薬もまだ多い。重度の病気では承認を待ち切れない患者が多く、政策対応を求める声が強かった。
(日経新聞 2012/3/13より引用)