厚生労働省は新型万能細胞(iPS細胞)など日本での先端的な医療研究を早く実用化するため、国内15~20の大学や研究所と2012年度中に連携し、有望な技術ごとに審査・承認する基準をつくる。企業が臨床研究(治験)に着手しやすくして医薬品や医療機器の開発力を高める。日本は基礎研究が進んでいる一方で、実用化に時間がかかり、有望な技術が海外に流出することが多い。成長戦略の柱である医療分野で巻き返しを狙う。
日本の医薬品は海外頼みの構図が年々強まっている。医薬品の輸入超過は00年度に2千億円程度だったが、10年度には1兆円超に拡大。高齢化で日本の医療費が年間40兆円規模に膨らむなか、医薬品の国際競争力を高めるため、弱点とされる臨床研究を国が後押しする。
先端的な研究や技術が医療の現場で実用化されるためには、臨床研究で安全性や有効性を証明し、国が審査・承認する必要がある。ただ革新的な技術は評価が難しく、実用化に向けた研究開発が足踏みし、臨床研究の段階に進めない例も多いという。臨床研究から実用化までには10年程度かかることがあり、厚労省はこれを数年分は短縮したい考えだ。
12年度は予算から21億円を使って、大学や研究所に研究費を補助し、先端医療の評価方法の研究を促す。
有望な技術は近く、厚労省が公募する。iPS細胞のほか、心臓の機能を回復させる大阪大学の心筋シート、ロボットで微細手術を手掛ける東京大学のコンピューター外科などが有力になっている。
iPS細胞の場合、がんになるリスクや、がんの発生率がどこまで抑えられれば実用化できるかなどを研究。その結果を踏まえ、国が承認の基準をつくる。審査機関の研究者を大学に派遣し、先端医療の知識を共有することで審査の期間も短縮する方針。
臨床研究を強化するため、13年度までに全国の15の病院を中核病院に指定し、国の承認に必要なデータを迅速に集められるようにする。ほかの医療機関と共同で臨床研究ができることなどを条件にする。中核病院の整備には12年度だけで34億円の予算をあてる計画だ。
臨床研究の手続きの簡素化に向け、規制も緩和する。通知や省令を見直し、初期の臨床研究で共同実施する医療機関を増やしやすくするほか、企業による治験は、医療機関と取り決めた症例数の条件などを柔軟に変えられるようにする方向だ。
厚労省は12年度予算で、審査・承認基準づくりや中核病院の整備のほか、がんなどの個別研究の支援を含め、先進医療の早期実用化に127億円を投入する。医療分野に力を入れる米欧やシンガポール、韓国などに対抗し、日本発の先端医療を増やす狙いがある。
(日経新聞 2012/2/21より引用)