岩手医大解剖学講座の原田英光教授(50)と同大歯学部先進歯科医療研究センターの大津圭史研究員(38)は、万能細胞と呼ばれる人工多能性幹細胞(iPS細胞)から、歯を構成する象牙質のもととなる「象牙芽(が)細胞」を作り出す技術を開発した。さらに研究が進めば、患者自身の細胞から作ったiPS細胞を用いて歯を再生するなど新たな治療法確立につながる可能性もあり、注目を集めそうだ。
歯は表面のエナメル質と内側の象牙質で成り立ち、それぞれエナメル芽細胞、象牙芽細胞から作られる。原田教授らは2007年ごろから、iPS細胞から象牙芽細胞を作ることに取り組み、11年12月に技術を確立した。
同様にエナメル芽細胞を作る技術開発に取り組む東北大歯学研究科の福本敏教授との共同研究。使用したiPS細胞は、開発者の山中伸弥教授がいる京都大が作った。研究成果は米国の学術雑誌(オンライン版)に発表した。
原田教授らは、iPS細胞に成長を促す各種組み合わせの栄養素を与えて培養し、象牙芽細胞へと性質を変える「分化」を図った。試行錯誤の末、いったん前段階に当たる「神経堤細胞」へ分化させ、さらに象牙芽細胞へ分化する2段階方式を取り成功した。
2段階の分化の際に与える栄養素は全く別な組み合わせ。大津研究員は「適した栄養素の組み合わせを
見つけるのに最も時間がかかった」と苦労を振り返る。
現在は、原田教授らの知人で歯の研究家として知られるフランス・ストラスブルグ大のハーブ・ルソー教授の下、
この象牙芽細胞と既存のエナメル芽細胞を組み合わせて歯を作る実験もスタートしている。
今後、エナメル質も含めてiPS細胞から歯を作り出す技術が完成すれば、同細胞から身体器管を作る
世界的にも例のない成果となる。
原田教授は「iPS細胞で本物の歯を再生できれば、人工物を使うインプラントなどと違い血管や神経が通じ、
遺伝的に歯ができない患者の治療法などにも結び付けられるだろう」と意義を語る。
(岩手日報 2012/2/5より引用)