和歌山県立医科大の近藤稔和教授と金沢大の向田直史教授らは、骨髄で作られ血管のもととなる幹細胞が傷ついた皮膚を素早く治すのに役立っているのを突き止めた。寝たきり患者などに多い床ずれや、糖尿病が原因で起こる皮膚の傷などの早期治療につながる成果だ。
米医学誌ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(電子版)に掲載された。
傷ついた皮膚では血管が新しくでき、栄養分などを運び傷の修復を促す。この際、骨髄の中にある「血管内皮前駆細胞」が移動して血管に成長するが、患部にどうやって集まるか未解明だった。
研究チームはこの前駆細胞の表面にある「CCR5」というたんぱく質に着目。この物質を作れなくした遺伝子欠損マウスは、皮膚の傷の治るスピードが通常の約半分に下がるのをみつけた。欠損マウスは前駆細胞の患部への集まり具合も約半分にとどまっていた。
正常マウスの骨髄を欠損マウスに移植すると、傷の治り方も通常に戻った。CCR5に結合するたんぱく質「CCL5」の働きで、前駆細胞を患部に呼び寄せていた。
この仕組みを調節できれば、皮膚の傷を素早く治せる可能性がある。がん細胞も増殖のために血管を新しく作る。血管内皮前駆細胞がかかわっているため、CCL5やCCR5の働きを抑えればがんの増殖や転移を防げる可能性もある。
(日経新聞 2012/1/16より引用)