理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市中央区)などの研究グループが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った目の網膜色素上皮細胞を使い、2013年度にも始める臨床研究について、目の病気の加齢黄斑変性のうち日本人に多いタイプ「滲(しん)出(しゅつ)型」を対象とする方向で計画している。約3年間かけて5~10人程度に実施する予定で、その後は治療の標準化に向け、世界規模での臨床試験(治験)を目指す。
あらゆる細胞に分化できるiPS細胞は、皮膚などの細胞に特定の遺伝子を組み込んで作製。網膜色素上皮細胞は視細胞を維持したり、栄養を送ったりする働きがある。
加齢黄斑変性のうち滲出型の治療は従来、「抗VEGF(血管内皮細胞増殖因子)薬」で、網膜に障害を起こす「新生血管」を収縮させるのが基本。ただ根本治療とはいえず、薬剤が高額で患者負担も大きいという課題がある。もう一方の「萎縮型」は欧米に多く、既に米国で胚性幹細胞(ES細胞)から作った網膜色素上皮細胞移植の治験対象になっている。
臨床研究では、新生血管と障害がある網膜色素上皮細胞を除き、シート状にしたiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞を移植する方針。iPS細胞由来の細胞は生体に移植した後に腫(しゅ)瘍(よう)化する危険性も指摘されるが、研究グループによる網膜色素上皮細胞の安全性試験で、これまでのところ腫瘍化はない。万一の場合を想定し、移植後は網膜の断層を画像化する装置などで検査。もし腫瘍が見つかっても、すぐにレーザーで焼くことができるという。
同センターの高橋政代チームリーダーは「臨床研究後の治験については、国内だけでなく欧米の治験審査機関との協議を検討している。治療法を世界的に普及させたい」と話す。
(神戸新聞 2011/12/24より引用)