生命維持に必要なホルモンを作り出す組織「下垂体」を、さまざまな細胞に分化するマウスの胚性幹細胞(ES細胞)を使って作成することに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)と名古屋大の研究チームが成功した。作成した下垂体をマウスに移植し、正常に機能することも確認した。ES細胞から形成過程が複雑な内分泌器官を作ることに成功したのは世界で初めて。9日付の英科学誌「ネイチャー」電子版で発表した。
血圧の低下や意識障害などを引き起こす下垂体機能低下症は国内で少なくとも7000人の患者がいるが、ホルモンを補充する対症療法しかなく、今後の研究の進展が期待される。
同研究センターの笹井芳樹グループディレクターらがマウスのES細胞を培養。約2週間で原形になる組織が形成された。更に培養液に手を加えると、一部の細胞が、下垂体から出る副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を産出する細胞に変化。
作成した組織にACTHの分泌を促すホルモンをかけると、その分泌量は大量になり、副腎皮質ホルモンが過剰な状態ではACTHの分泌量が自動的に減少。生体内と同様に分泌量の調節ができることが確認された。
下垂体を除去したマウス14匹に今回作成した下垂体を移植すると、血中のACTH濃度が上昇し、全て9週間以上生存した。
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■ことば
◇下垂体
大脳のすぐ下の視床下部にぶらさがるようにあり、ヒトでは直径約1センチ。生命維持に必要な副腎皮質刺激ホルモンや子供の身長を伸ばすのに必要な成長ホルモンなど、重要なホルモンを分泌する。
(毎日新聞 2011/11/10より引用)