iPS細胞:米国で特許成立 開発競争で優位に 京大発表
京都大は11日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)作成製造の基本技術に関し、米国で特許が成立したと発表した。京大の特許は日本と欧州などで既に成立しているが、市場規模が大きく生命科学研究の先頭を行く米国で再生医療や創薬への応用が期待される同技術の特許を得たことで、日本は開発競争上、優位に立てそうだ。
成立した特許は06年12月、特許協力条約に基づき世界知的所有権機関(WIPO)に出願し、米国に移行手続きされていたもの。5日付で特許査定が通知され、今後1~2カ月で米国特許商標庁に登録される。権利期間は27年6月までの見込み。
欧州特許と同様、三つの遺伝子か、二つの遺伝子とある種のたんぱく質(サイトカイン)を用いてiPS細胞を作る技術が認定された。よく似た構造の遺伝子類を使う方法でも特許として保護されることや、体細胞に遺伝子を導入する方法を問わないことも欧州特許と同じ。ただ、遺伝子から得たたんぱく質の利用までは特許の範囲に認められなかった。
iPS細胞は山中伸弥・京大iPS細胞研究所長が世界で初めて開発し、08~09年に国内で三つの特許が成立。さらに先月7日付で欧州特許庁が登録決定した。日本や欧州は先に出願した者に権利が与えられる「先願主義」なのに対し、米国は先に発明した者が権利を得る「先発明主義」を取るなど特許制度が異なるため、米国での成立が注目されていた。
山中教授は「特許獲得にはiPS細胞の論文を書くとき以上の労力がかかった。これがゴールとは思っていない。臨床の現場や創薬など、本当の意味で役に立つものに育てていきたい」と述べた。
◇iPS細胞の特許を巡る動き
05年12月 京大がiPS細胞の作成手法に関する特許を日本で出願
06年 8月 京大がマウスiPS細胞作成を論文発表
12月 京大がiPS細胞の作成手法に関する特許を国際出願
07年11月 京大と米チームがそれぞれヒトiPS細胞作成を論文発表
08年 6月 京大などのiPS細胞の知的財産権を管理・活用する会社設立
9月 京大の基本特許が日本で成立
09年11月 安全性の高い作成法など京大の2件の特許が日本で成立
10年 1月 米ベンチャー企業がiPS細胞の作成技術の特許を海外で初めて英国で取得
11年 2月 京大が米ベンチャーから特許の譲渡を受け、米国での係争回避
7月 京大の基本特許が欧州で成立
8月 京大の基本特許が米国で成立
iPS細胞:技術普及への足場固まる 特許取得で
京都大が人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作成方法に関し米国での基本特許を得たことで、技術の普及に向けての足場固めが完了したと言えるだろう。
iPS細胞の当面の主な使い道は▽薬効成分の探索▽医薬品の毒性・有効性の評価▽患者自身の細胞による病態解明--など、基礎研究のための「道具」としての利用だ。この場合、基本特許がすぐに大きな収入につながるとは限らないが、全世界で「広く薄く」使われることが、研究を加速させ、早期の産業化につながる。
参考になるのが、1974年に米国で取得された遺伝子組み換え技術の特許だ。使用料を低く抑えたのが功を奏し、研究の基盤技術として急速に普及、バイオ産業の発展に貢献した。結果的には、特許を保有する米スタンフォード大に累計で200億円以上に上る利益をもたらした。iPS細胞の基本特許も、同様の成功を収める可能性を秘めている。
一方、海外での特許出願や維持には、多額の費用がかかる。慶応大研究連携推進本部の羽鳥賢一・副本部長(知的資産担当)は「知的資産の中核になる特許が成立したことは素晴らしい。だが、今後、京大が自力で全ての関連特許を確保するのは難しい。費用対効果を踏まえ、民間企業との連携も視野に入れた戦略が必要だ」と指摘している。
◇京大が海外で持つiPS基本特許
南アフリカ1件
ユーラシア1件
シンガポール2件
欧州1件
ニュージーランド1件
イスラエル1件
米国1件
英国1件
(毎日新聞 2011/8/12より引用)