幹細胞から取り出した成長因子を粉末にし、治療する時に水に溶かし、寒天などに含ませて使用する。その効果は、脳や骨、心臓、神経、皮膚など、ほぼ万能と言っていい。
難病に苦しむ多くの患者を救うことが期待される再生医療。この分野に強力な技術が加わった。名古屋大学の上田実教授(顎顔面外科)らが成功した、幹細胞の成長因子を使う世界初の画期的な医療技術がそれだ。
多くの再生医療では幹細胞そのものを使うが、上田教授らの方法では、人間の幹細胞から取り出した成長因子を粉末にして使う。具体的には治療時に粉末を水に溶かして寒天などのスポンジ状の物質に含ませ、骨など、再生させたい部位に移植する。「従来の再生医療では幹細胞自体が再生の主役と考えられてきましたが、実は幹細胞の分泌する成長因子こそが主役とわかったことがこれまでにない大きな研究成果です」(上田教授)
この方法では、再生できる組織に制約がなく、ほぼ万能であらゆる部位に使える。幹細胞の分泌タンパクを使うので「その幹細胞が効果を示す組織の再生はすべて可能」(上田教授)だという。
このため、脳梗塞、脊髄損傷、パーキンソン病、劇症肝炎、糖尿病、ドライアイなど、応用範囲も広い。
現在は臨床研究中とのことだが、これまで5例の骨再生治療が行なわれ、そのすべてで経過良好。すでに6か月以上経過した患者もいるという。また、治療に使われる幹細胞の成長因子は、原則として患者から取り出したものを使用するが、他人の細胞の成長因子でも免疫反応が起きないそうだ。さらに、粉末にした成長因子は長期間活性を保ち(粉末で約半年、水溶液で約1週間)、コストの面でも従来の幹細胞移植に比べて100分の1程度になるという。
移植する時に寒天などを使う理由は「成長因子を患者さんに戻した後、急激に拡散することを防ぎ、成長因子自体を運ぶ媒体にするため」(上田教授)で、寒天やコラーゲン以外の素材でも可能だそうだ。
●ダイムの読み
従来の細胞移植では腫瘍化する恐れがあり、治療費も高額になりがちだったが、この方法なら患者の負担も軽減できる。全く新しい治療法のため、薬事法の壁と厚労省の承認が必要だが、これらが解決され、成長因子を大量生産する方法が開発されれば、今後の再生医療に大きな影響を与えそうだ。
(DIGITAL DIME 2011/7/26より引用)