マウスの皮膚の細胞から、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を経ることなく肝細胞を作ることに、九州大生体防御医学研究所の鈴木淳史准教授の研究チームが成功した。iPS細胞から作る場合に比べてより確実に肝細胞に変化させることが可能で、患者への移植など応用も期待できるという。肝細胞は中国の研究チームが作製しているが、日本では初めてで、29日付の英科学誌ネイチャー電子版に掲載された。
鈴木准教授が採用したのは、線維芽(せんいが)細胞という皮膚の細胞に遺伝子を加え、培養することで目的の細胞に変化させる「ダイレクト・リプログラミング」と呼ばれる技術。
同じく線維芽細胞から作るiPS細胞は、どんな細胞にもなれる能力を持つが、その万能性ゆえに目的の細胞に絞って変化させるのは難しい。移植すると体内で腫瘍を作る危険性も高いことから、同技術はiPS細胞によらない方法として近年注目されている。世界ではこれまでに神経、血液、心筋の細胞を作り出した成功例がある。
この技術の鍵となる遺伝子に、鈴木准教授は肝細胞で働く2種類を使った。マウスの胎児の線維芽細胞に2遺伝子を入れて培養したところ、最終的に95%が肝細胞に置き換わったという。
作製した肝細胞は、体の機能を調節するアルブミンの分泌など本来の働きをしており、1カ月以内の死亡が避けられない肝不全マウスに移植すると、40%が長期間生きることも確認した。腫瘍は出来なかった。
鈴木准教授は「iPS細胞から作る場合と比べ、作業時間も大きく短縮できる。ヒトでの研究も進めたい」としている。
(西日本新聞 2011/6/30より引用)