先端医療センター病院(神戸市中央区)や立命館大などの研究グループが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った目の網膜色素上皮細胞を使い、失明の恐れがある目の病気、加齢黄斑変性の患者に対する臨床研究を2013年度にも始めるため、細胞移植技術の開発を進めている。これまでの実験の結果、培養した細胞を集めてシート状にし、樹脂製の膜で包み丸めて医療用の管に入れ、患部に張り付ける方法を有力視。3月1日、東京で開かれる日本再生医療学会で発表する。
iPS細胞は、皮膚などの細胞に特定の遺伝子を組み込んで作る。胚性幹細胞(ES細胞)とともに、さまざまな細胞になる能力がある「万能細胞」と呼ばれ、傷ついた臓器や組織を再生できると期待されている。
加齢黄斑変性の患者に対する臨床研究は、同病院や理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(同市中央区)などが共同で実施。5人程度を対象とし、患者自身のiPS細胞から分化した網膜色素上皮細胞を移植、有効性や安全性などを確認する。iPS細胞を使った臨床研究としては、世界初となる可能性が高い。
ただし実現のためには、細胞移植技術の確立が必要。研究グループのメンバーで同病院眼科の平見恭彦医師によると、加齢黄斑変性の患者には、網膜のうち視細胞が集まる「黄斑」とその周囲の2ミリ角ほどの部位を治療することが多いため、まず大きめの3ミリ角にした網膜色素上皮細胞の「細胞シート」(細胞数約3万~5万個)を作る。
一方で手術後の回復を早めるためにも、移植用に使う管や傷口の大きさはできるだけ抑えたいことから、細胞シートを丸めて小さくするために、樹脂製で空気を入れると曲がる2重の膜で包むことにした。
この膜で細胞シートを丸めて直径を2ミリ程度にし、医療用の管に挿入。実験では、水を流して膜からシートが外れるようにし、眼球の中を想定した水入りの培養皿に置くことに成功した。ただ、うまく外れない場合もあり、外し方などに課題は残っているという。
平見医師は「さらに小さめの細胞シートを注射器で挿入する実験も、別のメンバーが実施している。どんな方法が安全で有効かについて確認し、できるだけ早く患者の治療に役立てたい」と話している。
(神戸新聞 2011/2/28より引用)